Garu JP古典歌謡 / 苔の衣

苔の衣

出典:小野小町×僧正遍昭 贈答歌(『後撰集』/『大和物語』第百六十八段)
岩の上に 旅寝をすれば いと寒し
苔の衣を 我に貸さなむ(小町)
世をそむく 苔の衣は ただ一重
かさねばうとし いざ二人寝む(遍昭)
苔の衣 ジャケット

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歌のものがたり

Story

時代背景

平安前期。出家して僧正遍昭となった昔の貴公子と、当代一の歌人・小野小町。石上寺に旅寝した小町が、寺に遍昭がいると聞いて歌を送った——『後撰集』や『大和物語』第百六十八段が伝える一夜の応酬です。

作者の詩に込めた想い

「岩の上の旅寝は寒い、あなたの苔の衣(僧衣)を貸して」と試す小町に、「僧衣は一重しかない、貸さないのは薄情、いっそ二人で寝ましょう」と返す遍昭。恋の誘いとも冗談ともつかない際どい球を機知で打ち返し合う——大人の余裕と昔なじみの親しさがにじむ贈答歌です。

歌詞にこめたもの

歌詞はこの一夜のやりとりを、男女デュエットの掛け合いでそのまま劇にしました。試す小町と、粋にかわす遍昭。恋にはならない、けれどただの冗談でもない——千年前の大人のウィットをお楽しみください。

歌詞

Lyrics

旅の途中で 灯りも遠く

山の御寺に 草鞋をほどく

夜気が肌を 刺してゆく

苔むす岩に 身を横たえる

板間の影に 立つ人ひとり

昔 見た面影 そっと呼びかける

寒いふりして まつ毛を伏せて

試すように ためいきをつく——

こごえる夜に ひとつだけ

その衣 貸してくれない?

袖のはしを 分けるだけでいい

まつ毛の影で 嘘をつく

月は高くて 夜はながくて

ひとりの肩に 霜がおりる

ねえ ただ それだけと

ほんとは もっと そばにいたくて

世を捨てた身に 衣は一枚

墨染めの袖 守るべき戒め

昔の名を呼ぶ その声ひとつに

鎮めたはずの 胸が揺れる

仏の前で 伏せたまなざし

惑うほどに 月は冴えてゆく

忘れたはずの ぬくもりひとつ

胸の奥から ほどけてくる——

貸さなければ 遠くなる

貸してしまえば 崩れてしまう

仏に問うた 答えは出ない

震える声を 戯けで隠す

たった一枚 分けるというなら

触れてしまうよ この戒めも

どうして今さら 揺れるんだ

昔の名前を 呼ばれただけで

ひとえの衣 その下で

俗と聖の あわいに立って

貸す貸さないの 言葉遊びに

ほんの少しの 真を込めて

寒いと言えば

嘘と知りつつ

それでも今宵 ここに居たくて

こごえる夜に ひとつだけ

貸さなければ 遠くなるのに

その衣 分け合えたら

まつ毛のかげの 嘘も とけて

月は高くて 夜はながくて

ふたりの肩に 霜がおりる

ねえ ただ それだけと

ほんとは もっと そばにいたくて

岩の上に 旅寝をすれば いと寒し

苔の衣を 我に貸さなん

世をそむく 苔の衣は ただひとえ

貸さねば疎し いざ二人寝ん

岩の上に 旅寝をすれば いと寒し

苔の衣を 我に貸さなん

世をそむく 苔の衣は ただひとえ

いざ 二人寝ん 今宵かぎり

貸す貸さないの その向こうで

触れた指先 ほどけない

ただ 単衣に くるまる夜よ

どうか このまま 明けないで

明けないで……

ただ このまま……

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