平安中期・天徳4年(960)、村上天皇御前の内裏歌合。歌合史上最大の大会の最終番、お題「忍ぶ恋」で壬生忠見「恋すてふ」と激突した伝説の勝ち歌である。判者が優劣を決めかね、帝が小さくこの歌を口ずさんだことで勝敗が決したと伝わる。
これはお題に応えた「題詠」であり、実際の恋の告白ではない。それでも「隠してきたのに顔色に出てしまった。物思いかと人に問われるほどに」——隠す努力が溢れる想いに敗北する瞬間の真実味が、千年の共感を呼び続けている。作り物の形式に、本物が滲んだ歌である。
「題を演じるプロ」を現代の役者に翻訳した。「忍ぶ恋」の役を演じる役者の、演技のはずの表情に本物が滲む——隠すための演技がいちばんの告白になる。構成も現代→古典→原典→現代の反転型で、クランクアップ後の静まり返ったスタジオで「話がある」と呼び止める場面で幕を引く。
台本に書かれた 役は「忍ぶ恋」
よりによって 相手役は君で
「アクション」の声で 世界が始まる
隠すことなら 得意なはずだった
「今のワンカット 最高だった」と
褒められたけど 演じきれなかった
忍ぶれど 色に出でにけり
わが恋は 隠しきれず
隠すための 演技のはずが
いちばんの告白に なってしまう
心より先に 瞳が白状する
カメラは嘘を 見逃さない
いにしえの夜の 蝋燭の下
同じ想いを 隠す人がいた
お題は「忍ぶ恋」 差し出す一首
なぜかその声は 震えていた
ざわめきの中 誰も知らない
お題を借りた 本当の恋
忍ぶれど 色に出でにけり
わが恋は 顔に出ていた
問われるたびに 嘘が下手になる
「なんでもない」と 言うその声が
いちばん雄弁 だったらしい
いつの時代も 恋は隠せない
忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は
物や思ふと 人の問ふまで
演じても 隠しても あふれるものは
昔も今も 変わらずにある
歌に忍ばせた人も 役に忍ばせる僕も
同じ痛みを 抱えている
忍ぶれど 色に出でにけり
わが恋は もう隠さない
どうせ表情に 出てしまうなら
言葉くらいは 自分で言うよ
クランクアップの 拍手の後
二人きりの スタジオで
「話がある」と 君を呼び止めて——
人の問ふまで……
——問われる前に 言いに行く