平安中期・天徳4年(960)、村上天皇御前の内裏歌合。歌合史上最大の大会の最終番、お題「忍ぶ恋」で40番・平兼盛「忍ぶれど」と激突した伝説の一番である。判者は優劣を決めかね、帝が「忍ぶれど」を口ずさんだことで忠見の負けと決した。壬生忠見は身分の低い歌人で、この敗北を苦に食も喉を通らず病に伏したという説話が『沙石集』に伝わる。敗れた歌はしかし、勝った歌と並んで千年歌い継がれている。
「恋をしているという私の噂が、もう立ってしまった。人知れず、ひそかに思いはじめたばかりなのに」——まだ自分でも「恋」と名付けていない柔らかな想いを、世間が先に名付けて言いふらしてしまった。噂に追い抜かれた戸惑いと、それでも損なわれることのない想いの純度を詠んだ歌である。
「告白の言葉を選んでいるうちに噂のほうが先に歩いた」現代の恋に重ねた。訂正するほど嘘っぽくなる噂の理不尽、「恋と名づけるのももったいなくて」しまっておいた想いの原点、そして噂も知らない色のまま無傷で残る気持ち——序盤で土から抜かれてしまった花が「枯れるようなやわな花じゃなかった」と芽吹き直し、「わたしの声で伝えに行く」決意で幕を閉じる。
打ち明ける言葉 選んでるうちに
うわさのほうが 先に歩いた
廊下の視線 ひそひそ声
君は気まずそうに 目をそらす
まだ何ひとつ 伝えてないのに
恋の名前だけ ひとり歩き
恋すちょう わが名はまだき
立ちにけり 早すぎるだろう
人知れずこそ 思い初めたのに
そっと育てる はずだった花を
土の中から 抜かれてしまった
訂正するほど 嘘っぽくなる
黙っているほど 認めたことになる
本当のことは たったひとつだけ
君が好きだと まだ言えてない
うわさの中の 「わたしの恋」は
わたしの恋と 別ものなのに
恋すちょう わが名はまだき
立ちにけり 返してほしい
人知れず 温めた時間ごと
噂話の 軽さの中で
恋が別物に なっていく
恋すちょう わが名はまだき 立ちにけり
人知れずこそ 思い初めしか
はじまりは ほんの偶然
ふとした横顔 胸に灯った
恋と名づけるのも もったいなくて
そっとしまってた それだけなのに
言葉になる前の 淡い光は
さわがしい声に かき消されていく
恋すちょう わが名はまだき
立ちにけり それでも胸に
まだ誰にも 渡していない
生まれたままの 想いがひとつ
噂も知らない 色をしてる
噂はいつか 風に消えても
この気持ちだけ ここに残る
知られたくらいで 枯れるような
やわな花じゃ なかったんだ
うわさなんて 追い越してやれ
わたしの声で 伝えに行くよ
人知れず 思い初めた日から
この気持ちだけは 本物だから
君の返事を 聞かせてほしい
思い初めしか……
思い初めしか……