▶秋風に吹かれてたなびく雲の切れ間から、漏れ出てくる月の光の、なんと澄み渡って明るいことか。
決まり字:あきか左京大夫顕輔=藤原顕輔(1090-1155)は六条藤家の歌の家に生まれ、崇徳院の命で勅撰集『詞花和歌集』を撰んだ当代一流の歌人。この歌は崇徳院に奉った「久安百首」の一首で、のち新古今集・秋上に収められた。物語も恋も教訓もなく、**一瞬の光の美しさだけを三十一文字にした、百人一首屈指の純粋叙景歌**。
「秋風にたなびく雲の切れ間から、漏れ出てくる月の光の、なんと澄みきって清らかなことよ」。結句「影のさやけさ」の体言止め=感嘆のまま歌が終わる。含みを読むなら——雲があるからこそ、切れ間の月光は際立つ。**遮られて、待たされて、それから現れる光のほうが美しい**。
終バスを降りた夜道。空は分厚い雲のふた。風が出て、雲が動いて——切れ間からこぼれた月光に、世界がいちど息を整える。「さやけさ」という言葉は、千年前の人がこの光につけた名前だそうだ。光はほんの数秒でまた隠れるが、目の奥に忘れ形見が残る。**なぜ晴れた夜より、曇りの夜の一瞬の月がきれいなのか**——待たされた分だけ光は澄んで、遮られた分だけまぶしくなる。Bridgeでそっと一歩だけ人生に触れる:「曇ってばかりの日々の上にも、切れ間はちゃんと用意されてる」。Finalは急がない帰り道、「見上げててよかった、千年前と同じ光だ」。
秋風に(新古今集/左京大夫顕輔・百人一首79番)Garu JP
終バスを降りた 夜道の上
空は分厚い 雲のふた
月の在り処も わからないまま
イヤホン外して 歩き出す
風が出てきた 雲が動く
夜が少しだけ そわそわする
秋風に たなびく雲の 絶え間より
もれ出づる月の 影のさやけさ
雲の切れ間から こぼれた光
世界がいちど 息を整えた
街の屋根も 木々の葉先も
さやさやと澄んだ 色に生まれ変わる
ほんの数秒で 月はまた隠れ
夜道はもとの 暗さに戻る
それでも目の奥 残っている
あの澄んだ光の 忘れ形見
晴れた夜より 曇りの夜の
一瞬の月が どうしてきれい
秋風に たなびく雲の 絶え間より
もれ出づる月の 影のさやけさ
千年前の 歌人もきっと
同じ光に 立ち止まった
言葉にならないと 言いながら
三十一文字に 残してくれた
待たされた分だけ 光は澄んで
遮られた分だけ まぶしくなる
曇ってばかりの 日々の上にも
切れ間はちゃんと 用意されてる
秋風に たなびく雲の 絶え間より
もれ出づる月の 影のさやけさ
秋風に たなびく雲の 絶え間より
もれ出づる月の 影のさやけさ
急がなくていい 帰り道
もう一度雲が 開くかもしれない
見上げててよかった 今夜の空を
千年前と 同じ光だ
もれ出づる月の……
影のさやけさ