▶飛鳥時代の末期。軽皇子(のちの文武天皇)が、亡き父・草壁皇子ゆかりの狩場・阿騎野に泊まった折、随行した宮廷歌人・柿本人麻呂が詠んだ歌群のうちの一首です。
東に昇る夜明けの光(かぎろひ)は若き御子のこれからの御世、西に傾く月は世を去った父君——雄大な天体の対比に、亡き主君への追慕と、新しい時代への継承の祈りを重ねました。
昇る日は御子の御世、傾く月は亡き父。歌詞はこの象徴を物語に膨らませました。かつて篝火を囲んで笑い合った主君はもういない。その遺児の横顔に面影を見つめ、涙を草の露に紛れさせる——「千年の後も君を想う」、時を超えた追慕と継承の物語です。
あの日この野で 君は弓を引いた
若き日の主 愛しき君よ
篝火を囲み 笑い合ったあの夜
もう還らぬと 知りながら来た
寒き夜を明かし 御子の傍らに
父に瓜二つの 横顔を見る
私の涙 草の露に紛れさせて
東の空を 仰いでいる
東の野に かぎろひの立つ
振り返れば 月かたぶきぬ
昇る光は 御子の御世
かたぶく月は あなたの面影
私は ここに立ち尽くす
あなたが居た場所に 今日も僕は立つ
受け継いだ言葉 胸に抱きしめて
夜を越えた者だけ 知る光がある
失って初めて 見える景色
君の面影は 月に似て静か
僕の行く先を 照らしてくれる
振り返ることは 弱さじゃないと
今ようやく 分かりはじめた
東の空に かぎろひの立つ
かへり見すれば 月かたぶく
昇る日を浴びて 歩き出す
かたぶく月に 君を見ている
喪って なお生きてゆく
東の野に かぎろひの立つ見えて
かへり見すれば 月かたぶきぬ
亡き君よ 御子は今 弓を構える
あなたの血を継ぐ その若き手で
東に 日は昇り
西に 月はかたぶく
過ぎし日よ さらば
されど私 忘れじ
東の 野に立ちて
千年の後も 君を想う