▶大海原の多くの島々を目指して漕ぎ出して行ったと、都にいる人に告げておくれ、漁師の釣り舟よ。
決まり字:わたのはらやわたの原(古今集/参議篁・百人一首11番)Garu JP
スーツケース一つ 抱えて出た
住み慣れた街の 朝もやの中
「都合により」って 濁したけれど
負けて去るわけじゃ ないんだ
見送りは要らない そう言ったのに
プラットホームで 空を見上げた
わたの原 八十島かけて
漕ぎ出でぬと 人には告げよ
俺は行くよ 新しい海へ
泣いてたなんて 言わなくていい
ただ「漕ぎ出した」と 伝えてくれ
それだけで 伝わるから
車窓を流れる 知らない山
振り返る癖は 捨てておいた
戻れるかどうか わからないけど
帆を張る風は どこにでも吹く
陸の灯りが 遠ざかるほど
空の星は 増えていくんだ
わたの原 八十島かけて
漕ぎ出でぬと 人には告げよ
選んだ海の 広さも深さも
後悔にする つもりはない
「元気でやってる」と 伝えてくれ
それだけで 伝わるから
都を追われた 小舟の上で
同じ言葉を 託した人がいた
釣り舟に告げた その声は
涙じゃなくて 誇りだった
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと
人には告げよ 海人の釣り舟
わたの原 八十島かけて
漕ぎ出した日を 忘れないよ
いつか この海の果てから
胸を張って 笑える日まで
風よ みんなに 伝えてくれ
必ず帰る あの港へ
人には告げよ……
海人の釣り舟