▶今度の旅は急なことで幣も用意できませんでした。手向山の紅葉の錦を幣として捧げますので、神の御心のままにお受け取りください。
決まり字:この平安前期。学者の家から右大臣まで昇りつめた菅原道真が、宇多上皇の御幸に随行した旅で詠んだ。急な旅で神に捧げる幣の用意ができなかった。道真はのちに藤原氏の讒言で大宰府へ左遷され、死後「天神様」=学問の神として祀られる。
捧げ物を忘れた失態を「手向山の紅葉の錦こそ最高の幣」と切り返した当意即妙の機知。ありあわせでも精一杯を捧げれば神は受け取ってくださる、という即興の知恵とユーモア。
手向けの幣も用意できないまま紅葉を捧げた道真の機転を、準備が完璧じゃないまま家を出る「本番の朝」に重ねました。思い出してほしいのは、あなたが祈るその天神様こそ、千年前に「ありあわせ」で切り抜けた張本人だということ。「完璧じゃないから 美しいんだ」——精一杯なら、それが一番のお供え。ありあわせで挑む全ての人への応援歌です。
このたびは(菅原道真・百人一首24番)/Garu JP
目覚ましの前に 目が覚めた朝
かばんの中身を 三度確かめて
覚えたはずの ページをもう一度
めくる指先 うまく動かない
完璧な準備なんて どうせ間に合わない
だったら持ってるもの 全部持っていく
このたびは 取るものも取りあえず
ありったけの勇気を かばんに詰めて
息を吸って 飛び込むだけ
あとは まにまに まにまに
神のまにまに
なるようになるさと 手を合わせた
千年前にも 慌てた人がいた
急な旅立ちに 捧げものも無くて
真っ赤に燃える 山の紅葉を
「これでどうか」と 神に差し出した
それでも神様は 笑って受け取った
精一杯なら それが一番のお供え
このたびは 幣も取りあへず
ありあわせの真心 全部捧げて
のちの天神様も 苦笑いのまま
あとは まにまに まにまに
神のまにまに
完璧じゃないから 美しいんだ
このたびは 幣も取りあへず 手向山
紅葉の錦 神のまにまに
このたびは もう迷わない
持ってきたものすべてが 私の幣だ
紅葉みたいに 燃えてみせるよ
あとは まにまに まにまに
神のまにまに
なるようになれと 走り出した
まにまに…… 神のまにまに……