▶人の心はさあ、どう変わったか分からない。けれど昔なじみのこの里では、梅の花が昔と同じ香りで咲き匂っている。
決まり字:ひとは平安時代前期、10世紀初頭。紀貫之は『古今和歌集』の撰者・仮名序の作者、日本文学史の巨人。長年泊まっていた宿の主に「久しぶりに来たね、心変わりしたのでは」と皮肉られ、その場で咲いていた梅を折って返した歌
皮肉に対する軽妙な切り返しの内側に、深い抒情——「人の心は変わっても、花は変わらない」。人の変化への諦めと、変わらぬものへの愛着
「変わってないよね?」と笑い合う再会の裏に、遠さがにじむ——原歌の皮肉を、その小さな痛みに重ねました。貫之が咄嗟に差し出した梅の一枝を、この曲では「変わらないもの」の象徴として受け取っています。人の心はわからなくても、花は昔と同じ香りで、変わってしまった自分ごと迎え入れてくれる。責めず諦めず、花に預けて赦していく——機知の奥の優しさを描いた歌です。
人はいさ(紀貫之・百人一首35番)/Garu JP
何年ぶりに 君の家を 訪ねた
君は笑って 「お久しぶり」と 迎えて
「忘れたのかと 思ってた」って つぶやいた
その声が しずかに 胸を さした
何も 答えられずに 目を伏せた その先で
庭の隅で 梅の枝が 揺れていた
人はいさ 心も知らず
けれど この庭の 梅の花は
昔と同じ 香りで 咲いてる
あなたの心は わからないけれど
花は 覚えている わたしを
昔のままで 迎えてくれる
変わったのは 君か 変わったのは わたしか
それすら もう わからなく なっていく
けれど 風が 運ぶ この香りだけは
あの日の春と ひとつも 違わない
時間は 残酷で やさしくて
何を消して 何を残すのだろう
人はいさ 心も知らず
けれど この庭の 梅の花は
時を こえて 香りを 送る
変わってしまった わたしのことも
花は しずかに 許してくれる
昔のままの わたしに 返す
言葉にならない 何かを
花が代わりに 覚えていてくれる
それだけで もう いいと思える
また 今年も 春が来た
人はいさ 心も知らず ふるさとは
花ぞ昔の 香ににほひける
人はいさ 心も知らず
それでも 咲く この花のように
昔のままの 香りとともに
わたしも 今日を 生きていこう
花ぞ昔の 香ににほひける
花ぞ昔の 香ににほひける