▶夕方になると、門前の田の稲葉をそよがせて、芦ぶきの粗末な小屋に秋風が訪れて吹いてくる。
決まり字:ゆふ夕されば(金葉集/大納言経信・百人一首71番)Garu JP
帰り道の 改札を出たら
空がもう 暗くなっていた
風が少し 軽くなってて
なぜか急ぐのを やめていた
部屋に入れば 置き去りの熱気
ひと夏ぶりに 窓を開けた
夕されば 門田の稲葉
おとづれて 秋風ぞ吹く
虫の声も 冷たさも連れて
窓辺から秋が 訪れる
夏が終わる それだけのこと
それだけで 胸がほどける
都会の風は 熱を吐くばかり
季節の名前を 忘れてた
蝉の声が いつの間にか
鈴の音に 替わっていた
何もしない 何も起きない
それが今夜の 贅沢で
夕されば 門田の稲葉
おとづれて 秋風ぞ吹く
灯りもつけない 部屋の真ん中で
風の音だけ 聴いている
おかえりを 言う人はいないけど
風に向かって ただいまを言う
千年前 都を離れて
葦の小屋で 風を聴いた人
その風は まだ吹いている
同じ音で 同じ冷たさで
夕されば 門田の稲葉 おとづれて
芦のまろやに 秋風ぞ吹く
夕されば 門田の稲葉
おとづれて 秋風ぞ吹く
目を閉じれば 何もいらない
虫の声だけ 聴いていたい
夏が終わって 秋が始まる
それだけのことを 祝おう
芦のまろやに……
秋風ぞ吹く