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百人一首 第90番・殷富門院大輔見せばやな

殷富門院大輔出典:『千載集』恋四・884
見せばやな 雄島の海人の 袖だにも
濡れにぞ濡れし 色は変はらず
百人一首『千載集』嘆き雄島(宮城県宮城郡松島町)
見せばやな ジャケット

現代語訳

お見せしたいものです、雄島の漁師の袖でさえ、濡れに濡れても色は変わらないのに——血の涙で色の変わった私の袖を。

決まり字:みせ

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歌のものがたり

Story

時代背景

殷富門院大輔(1130?-1200?)は平安時代末期の女流歌人。藤原信成の娘で、後白河天皇の皇女・殷富門院亮子内親王に仕えた。多作で知られて「千首大輔」と呼ばれ、俊恵法師の歌林苑に加わって藤原定家・寂蓮・西行・源頼政ら当代の歌人と広く交わり、数多くの歌合に出詠した。1192年、殷富門院の出家に従って尼となる。女房三十六歌仙の一人で、勅撰集に約65首。この歌は『千載和歌集』恋四・884、歌合で「恋」の題に詠んだ作。源重之の「松島や 雄島の磯に あさりせし 海人の袖こそ かくは濡れしか」を本歌に取り、「漁師の袖ほど濡れた」という重之の嘆きを、「濡れただけでなく、色まで変わった」と一段上げて返した。涙で袖の色が変わる——「血の涙」は当時の恋歌の誇張表現で、歌合という競技の場で、先人の歌を上回ってみせる機知の一首。

詠み人の想い

「お見せしたい」——歌は願望から始まる。雄島の漁師の袖は、毎日海水に濡れに濡れても色は変わらない。私の袖は違う。涙で色が変わってしまった。見せたいのに、見せる相手はそれを見ようとしない。嘆きを嘆きとして言わず、「濡れても色の変わらない袖」と比べて、自分の袖のほうがひどいのだと競ってみせる——その競い方に、誇りと、隠しきれない痛みが同居する。歌合の作だから、恋は"題"かもしれない。それでも「見せばやな」の一語は、千年後にも本音として響く。

歌詞にこめたもの

この歌でいちばん惹かれたのは、「見せたい」から始まる歌なのに、見せられないものを歌っているという矛盾だった。現代の夜にも同じ袖がある。傘を持たずに帰る夜、雨はどれだけ袖を濡らしても色までは変えられない。洗っても落ちない色が袖の裏に残っていて、乾いたシャツを畳んで何も無かった顔をする。歌詞では原歌の頭の五音「見せばやな」と、内蔵された反復「濡れて 濡れて」をそのままサビのフックにした。感情の言葉はほとんど使わず、濡れる/乾く/落ちない色、という袖の景だけで語る。Bridgeの「涙で色が 変わるなんて/嘘みたいで 本当のこと」は、この歌の誇張(血の涙)を現代の耳でそのまま受け取った言葉——誇張だと分かっていて、それでも本当だと知っている人の歌。恋に限らず、隠した痛みを誰かに見せたい夜のための曲。それがこの曲に込めた想い。

歌詞

Lyrics

見せばやな(千載集/殷富門院大輔・百人一首90番)Garu JP

Verse 1

傘を持たずに 帰る夜

袖が少しずつ 重くなる

傘を持たずに 帰る夜

袖が少しずつ 重くなる

雨はどれだけ 濡らしても

色までは 変えられない

Pre-Chorus

見せたいものが ひとつある

誰にも 見せられないもの

Chorus

見せばやな 雄島の海人の 袖だにも

濡れにぞ濡れし 色は変はらず

濡れて 濡れて 濡れても

変わらない 袖があるなら

変わってしまった この袖を

見せばやな あなたに

Verse 2

朝には乾いた シャツを畳む

洗っても 落ちない色が

袖の裏に 残ったまま

何も無かった 顔をする

Pre-Chorus 2

見せたいものが ひとつある

見せたら 終わってしまうもの

Chorus 2

見せばやな 雄島の海人の 袖だにも

濡れにぞ濡れし 色は変はらず

濡れて 濡れて 濡れても

落ちない色が ここにある

笑っている 私の 袖の裏を

見せばやな あなたに

Bridge

いにしえの人も 同じように

泣いた袖を 歌にした

涙で色が 変わるなんて

嘘みたいで 本当のこと

Final Chorus

見せばやな 雄島の海人の 袖だにも

濡れにぞ濡れし 色は変はらず

濡れて 濡れて 濡れても

変わらない 袖があるなら

変わってしまった この袖を

見せばやな 見せばやな

Outro

色は変はらず……

見せばやな

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