「嘆け」と言って月が私に物思いをさせるのだろうか。いや違う。それなのに、月のせいだと言わんばかりにこぼれる私の涙よ。
決まり字:なげけ西行(俗名・佐藤義清)は鳥羽院の北面の武士というエリートの道を捨て、23歳で出家。理由は謎で、叶わぬ恋のためという説も残る。生涯月と花を詠み続け「月の歌人」と呼ばれた。
出家の身でありながら断ちきれない恋。涙の言い訳を月に求める自己矛盾を、自嘲を込めて詠む。
現代の「コンビニ帰りの夜道」に置いた。「泣いてないよ 泣いてないってば ただ月が まぶしいだけ」——涙の犯人を月に押し付ける男の強がり。核は「この涙は 月のせいじゃない 君のせいだと 言えないだけ」。Bridgeで千年前の誰かも同じ言い訳をしていたと気づき、強がりが孤独でなくなる。「今夜だけは 月のせいで」=泣くための口実は千年前から人間に必要だった、という着地。
嘆けとて(千載和歌集・百人一首86番)Garu JP
コンビニ帰りの 夜道の途中
やけに月が きれいな夜
泣いてないよ 泣いてないってば
ただ月が まぶしいだけ
消せない写真 見なきゃいいのに
親指が 勝手に動く
嘆けとて 月が言うのかよ
違うだろ ほんとは知ってる
この涙は 月のせいじゃない
君のせいだと 言えないだけ
今夜は月の せいにさせて
すれ違う人は 誰も知らない
昨日までの 僕らのこと
「元気でね」って 笑ったくせに
帰り道は このざまだ
強がりの数だけ 涙は重い
月だけが 黙って見てる
嘆けとて 月やはものを
思はするなんて 八つ当たりさ
かこち顔で 涙が落ちる
君のせいだと 認めたくなくて
今夜も月を にらんでる
千年前の 夜もきっと
誰かがここで 月を見上げて
同じ言い訳 していたんだろう
涙は月に 預けておけ
嘆けとて 月やはものを 思はする
かこち顔なる わが涙かな
嘆けとて 月は何も言わず
ただ黙って 照らすだけ
この涙が 乾くまでは
月のせいに しておくよ
今夜だけは 月のせいで
かこち顔なる……
わが涙かな