河原左大臣=源融(822-895)は嵯峨天皇の皇子で、臣籍降下して源氏の姓を賜った「源氏物語の光源氏のモデル」の一人。贅を尽くした大邸宅・河原院に住んだことから河原左大臣と呼ばれた——47番八重葎で歌った、あの荒れ果てた豪邸の主その人である。「しのぶもぢずり」は陸奥・信夫地方の摺り染め。石の上に布を置き草木で摺ると、ねじれ乱れた模様に染まる。その乱れ模様に、恋に乱れる心を重ねた。古今集・恋四・724。
「陸奥のしのぶ摺りの乱れ模様のように、私の心は乱れ始めた。いったい誰のせいで? 私のせいではないのに(あなたのせいだ)」。恋の乱れを人のせいにする、いささか子供っぽくて人間くさい歌。皇子として生まれ大臣まで昇った男が、恋の前では「君のせいだ」と拗ねてみせる。この可愛げが千年残った。
もぢ摺りの乱れ模様に「誰のせいだと思う?」と拗ねてみせた原歌の人間くささを、この曲の核にしました。規則正しかった男の毎日が恋でほどけ、整えようとするほど乱れていく可笑しさを現代の日常で描き、サビは原歌の答えをそのまま現代語に——「僕のせいじゃない、君のせいだ」。ねじれたまま美しい染め模様のように、乱れた心も直さなくていい、と歌う開き直りの求愛です。
陸奥の(古今集/河原左大臣・百人一首14番)Garu JP
アイロンかけたシャツが しわになる
まっすぐ歩けた道で つまずく
規則正しかった 僕の毎日が
君に会ってから ほどけていく
整えようとするほど 乱れていく
これは誰の せいだと思う?
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに
乱れそめにし われならなくに
乱れ始めた この心は
僕のせいじゃない 君のせいだ
一度染まったら 二度と戻れない
君の色に 染まってしまった
着信ひとつで 予定が飛んで
返事ひとつで 眠れなくなる
思ってたのと ちがう毎日
でも戻りたいとは 思わないんだ
ほどけた糸は 結び直せない
これは誰の せいだと思う?
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに
乱れそめにし われならなくに
千年前の 都の人も
恋に乱れて 人のせいにした
偉い大臣も 僕と同じ
君のせいだと 歌にした
みちのくの 染めの模様は
ねじれたままで 美しい
乱れた心も きっとそうだ
直さなくていい このままでいい
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに
乱れそめにし われならなくに
乱れ始めた この心は
僕のせいじゃない 君のせいだ
責任とって そばにいてよ
乱れたままの 僕のそばに
乱れそめにし……
われならなくに