
源実朝は鎌倉幕府三代将軍。頼朝の子で12歳で将軍に就くが、実権は北条氏にあり、飾りの将軍としていつ殺されてもおかしくない日々を生きた。心の拠り所は和歌で、万葉調の天才と評された。28歳の雪の夜、鶴岡八幡宮の石段で甥・公暁に暗殺される。百人一首でほぼ唯一の鎌倉武家の人。
永遠を願う対象が花でも月でもなく「漁師の小舟」であることがこの歌の凄み。明日が保証されない人間には、何も起きていない日常の風景こそが一番尊い。
世の中は常にもがもな——変わらないでくれ、と祈った実朝の願いを、目玉焼きの焦げたにおいから始まるいつもの朝に重ねました。ただし、祈るだけでは終わらせません。「当たり前と呼んでいたものぜんぶ奇跡だったんだ」と気づいた上で、続いてほしいなら今日を大切に生きよう、と祈りを行動に変えるのがこの曲の答えです。明日を知らない人だったから、今日がいちばんまぶしかった——その裏返しの歌です。
世の中は(新勅撰和歌集・百人一首93番)Garu JP
目玉焼きの 焦げたにおい
テレビの天気予報
「いってきます」の ドアの音
いつもと同じ 朝
この繰り返しが なぜだろう
たまらなく 愛おしい
世の中は 常にもがもな
続いてほしいと 願うなら
なんでもない 今日のすべてを
大切に 生きていこう
ふつうの日々は 宝物
スーパーの袋さげて
夕陽の道を帰る
「おかえり」って声がする
それだけで いいんだ
当たり前と呼んでいたもの
ぜんぶ 奇跡だったんだ
世の中は 常にもがもな
夕陽も「おかえり」も 守りたい
なんでもない 毎日のなか
幸せが 隠れてる
ふつうの日々を 育てていく
海辺で小舟を 見ていた人も
同じ祈りを 波にたくした
明日を知らない 人だったから
今日がいちばん まぶしかった
世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ
あまの小舟の 綱手かなしも
世の中は 常にもがもな
変わるものだと 知っているから
なんでもない 今日のすべてを
抱きしめて 生きていくよ
ふつうの日々よ ありがとう
渚漕ぐ あまの小舟の……
綱手かなしも